SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art

Kマウント用に発売されたSIGMA Artシリーズはわずか3本。
そして純正を含め、AF対応 & F1.4のKマウントFF用広角レンズは後にも先にもこの1本のみ。
他マウント版は2012年発売だが、定評を裏切らないスターレンズ級の性能はいまなお健在。
| 長所 | 短所 |
| Kマウントでは貴重なF1.4広角単 純粋に優れた光学性能 静粛な超音波モーター 質実剛健なビルドクオリティ | 単焦点としては大きく重い |
| おすすめの用途 風景 / ポートレート / 天体 | |
画質
解像感
並の(特に古い)大口径レンズにありがちな開放のフレアがかった描写や派手な色収差とは無縁な、クオリティの高い光学性能。絞り込んだ方が画質は向上するが、基本的にはあまり難しいことを考えず安心して撮影することができる。
開放は拡大すると流石に甘さを残しているものの、F2.8あたりまで絞れば急激にシャープネスが向上するあたりに開放F1.4の余裕を感じる。FLD1枚、SDL4枚、非球面2枚と特殊レンズをふんだんに取り入れており、重量とサイズに十分見合った光学性能。
天体撮影にも適している。周辺部に明るい星を置かないかAPS-Cならあまり気にならないものの、開放だと周辺部は収差の粗が目立ち後述する減光の影響も強め。一段以上絞ると安定感が増す。
ボケ
非常に良好。多少ボケが色づいたり輪郭が浮き上がる条件もあるにはあるので探せば粗もあるものの、並の単焦点より高い次元で解像力と自然なボケ味が両立されている。
硝材は豪華だが、価格は純正のDFA★単焦点に比べると控えめに抑えられている。
周辺減光
周辺減光は開放でそれなりに強いが、F1.6でも目に見えて軽減される。個人的には周辺減光も演出として役立つシーンもあるので、1/3段で雰囲気を切り替えられるのは好ましい仕様。
解像力も含め、F2.5〜2.8まで絞り込むと極めて高いパフォーマンスが安定して発揮される。
その他
歪曲補正、倍率色収差は見られるもののごく軽微。最近の一部のサードパーティー製品とメーカーの組み合わせだとボディ内収差補正機能に対応しているケースもあるが、PENTAXの場合サードパーティーレンズの補正には対応していないのでレンズ側で画作りが完結している点は非常に扱いやすい。
逆光にも十分強く、フレアがかった描写になる場面はほとんど無い。
ミラーレス用のDG DN版では周辺解像力などにさらに磨きがかかっているらしいが、DG版でもクオリティには何の不満もない。
機能
AF性能
SIGMAお得意のHSM(超音波モーター)を搭載している。Kマウント用だとカプラー駆動に置き換えられることの多いHSMがしっかり搭載されていることは喜ばしい。
AFを最短〜無限遠で行き来させるときの速度感としては、DFA★70-200やDA20-40と同等か僅かに遅い程度。つまりそこまで速い方ではない。といっても動く被写体をリアルタイムでトラッキングするような用途に不向きなだけで、通常用途では問題を感じない必要十分な速さ。動作音が静かなので、AF-Cを使う場面でもボディAFよりストレスは少ない。
サードパーティー製だからか位相差AFが中途半端な位置で決まってしまう傾向が見られ、癖との付き合いは求められるかもしれない。2013年5月に発売されたペンタックス用のDG35Artはファームウェアがver1.00から更新されておらず、K-50やK-3以降の機種にはAFが最適化されていないのではという仮説を立てている。真相やいかに。
インナーフォーカスでフルタイムマニュアルにも対応していて、鏡筒が伸びたりピントリングに指が持っていかれたりすることもない。ピントリングはどっしりとしたトルク感で、好みとしてはもう少し軽くてもいいのだが回転角度などは適切で精密にピント位置を決めることができる。AF/MFの切り替えはレンズ側のレバーでも切り替えることが可能。
接写性能
最短撮影距離は0.3m、最大撮影倍率は0.19倍。レンズの全長が長いので心理的にも思いの外寄れるように感じられる。
品質
鏡筒には当時新開発されたTSC(Thermally Stable Composite)という高硬度ポリカーボネートが採用されており、熱収縮による性能の変化を抑えているそう。表面仕上げが梨地ではなくマット仕上げなので傷やテカリが目立たないか若干気がかりだが、金属鏡筒にも劣らない堅牢な手触りでビルドクオリティの面に不満は無い。フードの根本がゴム素材になっているため着脱時にグリップさせやすく、細かいところまで気が配られている。
665gと単焦点としてはそこそこ重量級。全長もちょっとしたズームレンズ並で、花形フード込みだとマウント部から14cmほどせり出す形になる。逆に言えばF4通しのズームレンズ並かそれ以下のサイズ感ということで、極端に取り回しが悪い訳でもない。純正でいうとDA17-70やDA16-85と似たようなサイズで、重量だけ3〜4割上乗せするイメージ。やっぱちょっと重いかもしれない。K-1とのフィット感は大変良い。
防塵防滴に対応していないのが最も惜しい部分。雪国で暮らしていると冬場は機材が濡れがちなので、最近は重視するようになった。なおミラーレス用のDG DN版ではシーリングが追加されているそう。それはちょっと羨ましいぞ。
まとめ
DFA★広角レンズはここにあった、ということでいいですね。
あと、KマウントAPS-C用の標準単としても最上位クラス。所謂レンズの美味しい部分を切り取る形で開放から全域シャープでボケも綺麗な描写力が楽しめる。純正で35mm F1.4を出してくれてもいいけど、ユーザー目線だとこのレンズがやはりチラつきがちなので28mm F1.4や24mm F1.4でいいのかなという。出るかどうかはともかく。
とか言っている間に2024年末、Kマウント用のDG35Artは生産完了品となった。これでF2を切るKマウント用の現行広角レンズは(MFレンズを除いて)FA31のみ。FA31も表現力で言えば同格に近い存在だし唯一無二のコンパクトさは魅力だが、ボディAFの使用が憚られる撮影シーンもあるので選択肢がひとつ減った形になる。
我が家の場合だと、K-3 Mark IIIのAF-Cで猫を撮る時に騒音が出ずそこそこ速いHSMは重宝する。暗い室内で1/250sぐらい稼ぐとなると、やはりF1.4の明るさは強力な武器。標準画角だと構図のバリエーションが限られるし、なんかK-3 Mark IIIでFF換算35mmの大口径広角レンズが欲しくなってきた。D FA★24mm F1.4 SDMとか出ませんかね。出ませんね。
というか、それならSIGMAの18-35/1.8が一応手に入る訳だけど。なおこの問題はSAFOX14(仮称)搭載のK-1 Mark IIIが発売されることによっても解決できる模様。出るかどうかはともかく。
備考
USBドック UD-01
ファームウェアの更新やピント調整が可能。ソフトウェアはWin/Mac両対応。ピント微調整だけならボディ側の補正でも対応可能だが、高いものでもないしファーム更新でAF性能が上がるかもしれないので買っておいても良いかとなる。
……と思いきや、DG35ArtのKマウント版はファームウェアver1.00が最新版。公式サイトを見る限りファーム更新可能なのはContemporaryシリーズの17-70のみなので、それ以外のレンズを使う人にとっては必要性が薄いかもしれない。
ピント調整は4段階の撮影距離に応じてかなり細かく設定できるので、ボディ側の補正だと遠景近景どちらかでピントが合わないような人は試す価値あり。
F-Foto ねじ込み式フード
HW67B
付属の花形フードが長くてそのままだと収納しづらく、頻繁に逆さ付けと順付けを切り替えるにはバヨネットも硬かったのでスナップ用に短いねじ込み式フードを導入してみた。
純正フードに比べて付け替えの手間も要らず取り回しは大幅に改善された。K-1付きで3Lのカメラバッグに収納できる。内部にレンズ先端と同径のねじが切られているので純正キャップもそのまま装着できる。
HW67Bは公称でFF換算28mmまでケラれないとされており、これより遮光効果の高いH67BはFF換算35mm以上のレンズに対応している。35Artには後者の方がマッチするかに思えたが、キワキワすぎて四隅がケラれてしまったので結局28mm用のHW67Bを使うことにした。
中古個体の初期不良
一応新同品と記載のあった個体を購入したものの、後々確認してみるとAPS-Cの範囲でも分かるぐらい方ボケしていた。大手中古ショップじゃないとこういうとき面倒。
SIGMAの診断は重修理となりそのまま修理依頼。不具合の点検もできたしフォーカスリングのラバー交換のほか、マウントもK-1/K-1II対応の改良マウントに交換してもらえたのでまあいいかとなった。
比較
smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limited
HD PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limited
PENTAX純正かつ王道の大口径広角レンズ。
非常に高い価値を見出す人と、設計が古い、パープルフリンジが出たり逆光耐性が高くなかったりするという点で微妙な評価を下す人とで二極化しやすい。実際にSIGMAのDG35Artとsmc版のFA31を両方使ってみた感想としては「これがArt!半端ない!」「あれ?FA31もかなり凄くない?」だった。
色収差、ボケの自然さ、解像力(特に開放)はDG35Artの方がわずかに良い。しかしFA31もボケ味は十二分に優れているし、開放の写りは若干柔らかいものの絞りで描写をコントロールできる魅力もある。何よりDG35Artは重量・フード込み全長ともにダブルスコアなので、FA31があのサイズであれだけの描写を実現していることに驚嘆したのだった。私がFA Limited贔屓であることとDG35ArtがArtシリーズの第一弾であることには留意が必要となる。
描写におけるDF35ArtとFA31の差は絶対値的な性能差というよりは方向性の違いであって、使用する側の好みによって選択が変わってくると言えるだろう。
どちらもAFはそこそこ速いがFA31はボディAF特有のモーター音が大きく、加えてクイックシフトフォーカス(フルタイムマニュアル)非対応という欠点がある。DG35Artの機能性を取るかFA31の機動力とシャッターチャンスの多さを取るか、というのが最も分かりやすい違いになる。
HD PENTAX-D FA 21mm F2.4 ED DC Limited WR
35Artに画角が近いのはFA31だが、描写特性はDFA21の方が近いかも。
開放に僅かに柔らかさを残しつつも抑えられた色収差、絞り込んだときの色収差、際立ったボケ味など。DFA21はフリートライアルでしか使えていないので客観的な比較が難しいが、光学性能はどちらも素晴らしく優秀。厳密な評価をするならDFA21は明るいF値で周辺まで点像をきっちり捉えるのには向かず、35Artは拡大時のフリンジが僅かに大きい。
AF速度やクイックシフトフォーカスシステム/フルタイムマニュアルといった操作性も大きな差はないが、シチュエーション次第ではDFA21のひとまわり分のサイズ差や防滴対応は強みになる。サイズに関してはフード装着時の取り回しが大きく異なる。
FA31、DFA21、35ArtはKマウントの広角レンズで三指と言って差し支えない銘玉だが、多少の癖を乗りこなしつつ携帯性込みの総合力を求めるか明るさ込みの光学性能に振り切るかで選択肢が絞られてくる。
HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limited
手持ちで唯一持っている他の35mmという理由だけでAPS-C機で比較してみた。
ポケットサイズのAPS-C用標準等倍マクロということで、35Artとは全く異なるレンズ。
焦点距離を合わせたからといって画角が一緒とは限らず、比較で用いた近距離のチャートでは全然像の大きさが違った。そのためそもそも厳密な比較ではない。
DA35Macroの解像力は単焦点としては飛び抜けたものではないが、色収差などの癖は周辺も含めて安定している。35Artの方はF1.4の時点でDA35の開放F2.8といい勝負で、F値を揃えるとセンサー性能目一杯の切れ味が発揮される。近接の解像性能に関してはF値2段分程度の差があると思って良い。
APS-C機で本格的なポートレート用標準単を求めるなら35Artは表現の幅が広く理想的なレンズのひとつ。DA35Macroは圧迫感がないのが長所で、あらゆる被写体を距離の制約なく攻められる万能性も強み。画質も入門ズームレンズより明らかに優秀なので、画質云々というよりは運用したいシチュエーションに応じて選ぶべし。









